脱むー通信/ちゃんくみ個人ブログ

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わたしのおばあちゃん

「おばあちゃん、くみこだよ」

 

年末年始の帰省で秋田に戻っていた私は、帰省1日目におばあちゃんの家を訪れた。

 

おばあちゃんに帰ってきたよ、と伝えたものの、おばあちゃんはわかっているのかわかっていないのかどちらともつかないような顔でにこにこと微笑んだ。

 

おばあちゃんは10年前からアルツハイマーを患っている。薬を飲んでいるので緩やかではあるが、この10年でいろんなことを忘れてきている。最近では、一緒に住んでるおじいちゃんと、毎日様子を見にいっているお母さん以外の人のことはよくわからなくなっているようだった。

 

私は昔から筋金入りのおばあちゃん子で、小中高校時代、実家を離れておじいちゃんおばあちゃんと3人で暮らしていたほどであった。超がつくほど几帳面で厳しいおばあちゃんだったので、たくさんケンカしたし、反抗もした。「ゴミを捨てなさい」「部屋を片付けなさい」「早くお風呂に入りなさい」仏頂面であれこれ言われて(おばあちゃんはあまり笑わない人だった)煩いなぁめんどくさいなぁと思いながらも、それでもやっぱりおばあちゃんが大好きだったし、おばあちゃんも私を大切に思ってくれてるんだろうなという実感が常にあった。

 

だからアルツハイマーになっても、私だけは忘れないだろうという自信があった。でも、あっけなく忘れられてしまった。

 

「くみこだよ?わかる?」
と聞いても
「そうなの?」
と答えにならない答えが返ってくる。

 

私は「ああ、そうか」と思った。きて欲しくないときがきてしまったか、と。でも思ったよりも辛さはなくて、しんみりとした寂しさだけがあった。

 

その日秋田は天気が良かったものの、やはり気温はとても低く、最高気温が1度という冬らしい日だった。一方で家の中に入るとみかん箱2つ分ほどの大きさのある石油ストーブがノンストップで炊かれていて、部屋はポカポカと暖かい。

 

私はおばあちゃんと何を話していいかわからず、ぼーっとテレビを観ていると、寒暖差で鼻がムズムズしてきて、ティッシュで鼻をかんだ。帰るときついでににゴミ箱に捨てようとものぐさして、使用済みのティッシュを手に握りしめたままテレビを見続けた私に、おばあちゃんが無言で「それよこしなさい」みたいな顔でふん、と手を差し出してきた。私も無言でティッシュを渡すと、おばあちゃんはティッシュをゴミ箱にポイと捨てた。そして何事もなかったかのようにまたテレビに目をやる。

 

「あぁ、おばあちゃんだ」と思った。几帳面でゴミはすぐに捨てたがったおばあちゃん。もう掃除機かけも掃き掃除もできなくなっちゃったけど、まだその片鱗が残っているような気がして、ちょっと嬉しくなって、そしてまた少し寂しくなった。おばあちゃんはにこにこしながらテレビを観続けていた。