春の儀式
毎年、桜が散ってゆるゆると気温が上がっていくこの時期になると、亡くなった父のことを思い出す。
父は5年前の4月に、がんで余命一ヶ月と宣告され、宣告通り5月6日に亡くなった。
大人になりきれず、自分勝手で、社会生活がうまくできなかった父。
離婚するまで母に暴言を吐き続けた父。
お前たちは俺の子じゃないと言った父。
死に際になって申し訳なかったと嗚咽しながら謝罪してきた父。
父のことは好きでも嫌いでもなかったけど、ただ、あの人がいなかったら自分は今ここにいないんだなとただただ思う。
不幸な境遇に酔いしれたいわけでも、定期的に個人を偲んでいるわけでもなくて、ただなんとなく、儀式みたいに毎年、この季節には父のことを考える。